[ひとりごと(1998.2.25)]

わさびのような声

 詩人のひらのりょうこさんらの誕生日を祝おうと、「如月バースデーコンサート」というパーティに招かれた。いつもお世話になっているし、先日も仕事を紹介していただいたばかりなので、お礼かたがた出かけた。

 ひらのさんとは、雑誌の対談の仕事で2年ほどご一緒した。いつもぶっつけ本番で、どんな話が飛び出してくるのかわからないという、当事者にとっては決してやりやすい対談ではなかったと思う。無論、ひらのさんがいつもよく準備して対談にのぞんでいたのは、同席していればすぐにわかる。それにしても、ひらのさんの博学ぶりにはいつも舌を巻いたものだった。

 対談相手は、狂言師に俳優、学校の先生に動物学者、漫画家、僧侶、ルポライターと多岐にわたった。専門用語や業界用語など説明を要するようなこともポンポン飛び出したが、その度に「それは……ですね」と、読者を意識して必ずフォローが入る。あらかじめ打ち合わせをしてのことではないので、これはかなり広い知識がないとできないことだ。さすがだ、といつも勉強させられた。

 この対談のほとんどは、あとで僕がまとめた。そのゲラを送るのだが、ひらのさんは字の間違いを指摘する程度で、ほとんどまとめ方や内容に文句をつけなかった。もちろん自分が話したことがそのままなのだからということもあるが、実はページ数の関係で、ホストになるひらのさんのトークはずいぶん削っていたことが多かった。それなのに、なのだ。
 一連の仕事が終わってから聞いてみたら、「プロがまとめたのだから……」とおっしゃる。僕のような駆け出しをこのように扱っていただくと、襟を正さなければと思わずにはいられない。

 さて、パーティの冒頭の約1時間は、ひらのさんと縁のある京都フィルハーモニー室内合奏団の演奏だった。生の管弦楽に間近で触れるのはかなり文化的なひとときで、日頃Macにばかり向かっている僕にとっては、乾いた砂に水が染み入るような時間だった。もっとも、僕にクラシックの造詣があれば、あの楽章がすばらしかったとかなんとかコメントもできるだろうが、残念ながらただ聴くだけだった。
 後半は声楽も加わった。マイクを通さなくても十分聞こえるだろうと思われるソプラノには、脳天を突き抜けるような刺激を感じた。これが、どこかで味わったような感覚……。それはまさに、わさびだった。

(記/1998.2.25)


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