[京のお酒エッセー 2005.5]

小国文男
京のお酒エッセー

「鳳麟」純米大吟醸(月桂冠)

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【データ】
「鳳麟」純米大吟醸
醸造元:月桂冠株式会社
製造年月:2005年4月
原材料名:米・米麹
精米歩合:50%
日本酒度:+2
酸度:1.4
アミノ酸度:1.5
アルコール分:16度

 月桂冠といえば大手だ。伏見の大手筋近くにあって「大手蔵」なんてのもある。いや、そういう意味ではなくて、日本有数の酒造メーカーのひとつだ。
 大手は好かん。だから僕はこれまで、月桂冠をわざわざ買って飲むことはほとんどなかった。買ったといえば、大倉記念館で限定販売している吟醸酒「ザ・レトロ」くらいだ。

 とはいえ、伏見の全蔵を飲もうと思ったら避けて通れない。どうせなら旨い酒をと思っていたら、油長さんで「『日本の酒』の看板は伊達じゃない。蔵元のレベルの高さを示す旨口大吟醸」と絶賛してあったので、つい食指が動いて買ってしまった。
 やってきたそのお酒「鳳麟」は化粧箱入りで、思った以上に豪華な装いだったのでビックリした。しかも、替栓用にとコルクがついている。普段はこんなのを使っているから不要だろうと思ったら、サイズが合わなかった。なのでさっそくコルク栓を利用しているが、これはこれでなかなかイキだと思う。

 栓を開けたところで、ほのかな吟醸香が鼻腔をくすぐる。コップに注ぐとほとんど無色透明だが、白い下地に透かしてみると、ほんの少しブロンズがかった感じがする。
 口に含む。喉に落とす。なんというか、サラリとした心地よさがある。コップに4杯目のいままで、アテなしで飲んでいる。
 改めて見てみると日本酒度は「+2」だ。データ的には甘口に近いが、アミノ酸度などの影響か、そんなに甘いとも感じない。いわば飲み頃といったところか。

 実は月桂冠は、2度ほど取材で訪ねたことがある。特に大倉記念館に隣接する「酒香房」で、昔ながらの酒づくりを行っているのは興味深い。
 酒蔵はどこでも、大なり小なり機械化が進んでいる。皮肉なことに、おそらくそれが最も進んだ大手の酒蔵で、ほとんど手作業による酒造りが再現されているのだ。それは余裕ゆえなのか、それとも危機感なのだろうか。
 ずいぶん前に話を聞いた記念館の館長さんの言葉も、まだ耳に残っている。
「化学的にはどんなお酒でもつくれます。しかし難しいのは、消費者のみなさんの嗜好にどう合わせるかです」
 なるほど……。

 機会があれば次は、これも記念館限定販売という、その「酒香房」のお酒を飲みたいと思う。

(記/2005.5.3)

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