[2005.12]

若年期認知症─本人の思いとは何か

社団法人呆け老人をかかえる家族の会編/(株)クリエイツかもがわ発行/(株)かもがわ出版発売/A5判184ページ/定価1,800円+税



若年期認知症

 若年期認知症──40代や50代といった比較的若い世代のアルツハイマー病です。広島まで取材にでかけ、50代後半の若年期認知症のご主人と奥さんから話を聞き、座談会を収録し、それらをまとめる仕事をしました。15枚ほどのやや長いプロローグは私の書き下ろしです。

 取材が夜になり、食事までごちそうになりました。ビールで乾杯。何気なくご主人に聞きました。
「ビールはよく飲まれたのですか?」
「ええ、飲みましたねえ」
「あ、会話になった!」
 すかさず奥さんがおっしゃる。みんなで「ほんとだ!」と笑い合いました。
 この日はご主人が通うデイサービスの取材もしたので、実はご主人とは昼にも顔を合わせていました。でも夕方お宅にうかがったとき、ご主人とは「初対面」でした。インタビューは全体で5時間ほどに及びましたが、その間こんなにスカッと対応する会話はほとんどなく、映画ではない「頭の中の消しゴム」の現実を目の当たりにしていました。

 もっとも、瞬間的にこうした会話が成立しても、現実問題としてインタビューの相手は奥さんで、ご主人からまとまった話をうかがうことはできませんでした。では、このご主人にどういう形で本に登場していただこうか。考えた末に、そのときの状態のまま、インタビューや座談会に登場していただくことにしました。
 ちょっと冒険です。普通なら、話の脈絡と直接関係のない不規則発言のような形になるので、カットしてしまう部分なのです。実は最初はそのつもりだったのです。でも今回はその発言こそが重要と位置づけました。併せて取材時点でのご主人の状態のできるだけ正確な記録になれば──。そんな思いでまとめています。

 ですからこれは、自分でも初めてのまとめ方をした本です。興味がわけば、ちょっと読んでみてください。
 ちなみに、上記の会話は休憩中のことなので、本文には出てきません。でも座談会中に、よく似た「会話」スポットがあります。


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